top of page

へたくそ心中論

 

俺は、世渡りが上手い方である。そこそこ気は使えるし、そこそこ思いやりもある。道端でおばあさんが困っていれば手を差し伸べることも出来る。迷子の子供がいれば、肩車をして親を探すことも出来る。友達にも、環境にも恵まれた。

しかしこの世は、生きずらい。

世界が俺を中心に回っていたら、どれほど良かったか。最近はそんなことばかり考えている。

 

 

 

 

「​────お疲れ、今日もいい守備だったぞ」

「お疲れ様です! 鷲尾さんも最強のブロックでした!」

「今日は古森の調子良かったね」

「角名! いつもって言え!」

 

古森元也。職業 プロバレーボーラー。

将来は日本代表選手になって、世界一になりたい。その夢の半分を既に叶えている。世の中は俺を、日本ナンバーワンリベロだと言う。

 

V1開幕戦の相手、ムスビィブラックジャッカル。結果は3-2の大接戦でウチ、EJPライジンの勝ち。BJに日向が加入して、V1トップのアドラーズに白星をあげてからのBJの快進撃は凄まじいもので。かなり苦戦してなんとかもぎ取った勝利。フロアディフェンスが上手く機能してあの化け物達を抑え込んだ。5セット目のデュースで、BJのサーブが不調になったのも運がいいと言える。

「古森、今日ホテル直帰?」

「んー、うん、一回帰ってもっかい出るけど」

「あー……佐久早ね」

「ひひ、バレた?」

BJのスタメンである佐久早聖臣は、俺の従兄弟である。

同い年で、高校まで同じチームだった。性格はネガティブで、石橋を叩きまくって安全点検を5回したら前に進めるようなやつ。性格に難アリ。シンプルに口が悪い。世渡りは下手だ。

バレーボールが無ければ聖臣と仲良くなることは無かった。性格が違いすぎる。楽観的な俺とは違い、ホコリひとつも許さない細かな性格。飽きっぽい俺とは違い、なにか始めたら終わりまで必ずやる。ウマは合わない。昔も、今も。 しかしプロになった現在でさえ、俺達は顔を合わせる度に食事に行く。仲が良いと、思われている。そう言っている。

ロッカールームに戻る廊下。あまり広くはない通路で、180をゆうに越えたガタイの男が並ぶには狭い。一歩下がって余裕をつくる。

「バスの時間何時でしたっけ」

「18時半だな」

「やべーじゃん、もう15分だけど」

今回の体育館は駅前のホテルから少し遠い。とりあえずホテルまでは団体行動。一度ホテルに戻って、また解散。門限とかはあまりない。次の日、ホームタウンへ帰るバスの乗車時刻に間に合えば大丈夫だ。

わちゃわちゃと騒ぎながらも、急ぎ足で目的地へ急ぐ。少し後ろを歩きながら、急げ急げとふたりの背中を押した。試合に疲れきって、特に角名だけやたら進みが遅い。

「角名、猫背」

「自分じゃ直んねーから直して」

「じゃあ海老反りくらいはできるようにさせっから」

「ん〜、エンリョ」

勿体ない。身長を無駄にしそうな猫背を見かける度に、角名に注意している。背骨曲がったら、せっかくの身長がさ、と何度も語る。まぁ、直った試しはないし現在進行形で注意しているけれど。チームメイトの背中を改めて見るとき、あぁ、自分って結構小さいんだな、と気付く。オリンピックに出た時も思ったこと。2メートルを越える選手がざらに居て、その選手とネット越しに握手するのとは違う感覚。おお、すげぇ、っていう見上げる感覚じゃないのな。同じ日本人っていう土俵で、もうちょっと、身長があればよかったなって。ちょっと悔しいだけの、リベロの気持ち。

俺は世渡りは上手だが、バレーボールも上手である。自分で言うのは憚られるとか、まだまだですとか、そんなの上辺でいくらでも言える。が、俺はバレーボールで飯を食べているわけだし、日本代表にも選ばれている。日本が選ぶリベロが自称下手なんて、恥ずかしいだろ。謙遜はビトクの現れではなく、自信のなさの現れじゃないか。俺は上手いけど、更に上手くなりたい。これに尽きる。だから、もっと技術が欲しいし、もっと身長が欲しい。身長が低いからリベロやってるんじゃないけど、あったら良かったって、思う日がある。小さくても上手いリベロは居る。でも、大きくて上手いから、いいんじゃないか。バレーボールにおいて大きくて損をすることなんてないのだ。上を目指せば目指すほど、その気持ちは大きくなる。

世の中は俺を、良いリベロだと言う。

 

 

揺らめく外灯でオレンジ色に染まる街。夜なのにずいぶん明るい。長野の夜は閑散としていて、どこか涼しげだから、なんだか胸が高鳴ってしまう。昼夜の寒暖差もあまり厳しくないホームタウンに比べると、東京はまだ気温が高い。厚手のトレーナー1枚で成功だった。一度でも寒い冬を経験すると、毎年身を縮めていた寒さが嘘のようで。周りを見渡せば場違いのような気がした。

19時に駅前。時計の下で待ち合わせ。スマートフォンの画面を明るくして、現在の時刻、18時56分。

からからと枯葉が転がる音がして、目を閉じる。くしゃり、どこかで、乾いた音をたてて踏み潰される音が心地よかった。

「……聖臣遅えな」

「遅くねえし」

「う、」

わ、ともれる声を押し留めて、空気を飲み込む。頭の上。もっと言うと後頭部あたりから降ってきた声。一歩よろけてしまう。くしゃり、枯葉が潰れる音。首だけを動かして、抗議の意を込め振り返った。冗談まじりに眉を顰めれば、猫背気味の男に「ナニ」と返される。後ろから声をかけるのはいささか卑怯ではないだろうか。

「遅刻のくせに」

「は、間に合ってるし」

むしろいつもよりお前が早えの。項を小突かれる。待ち合わせまであと2分。俺はいつも、待ち合わせ時間の数分後にしか目的地に辿り着けない病にかかっている。いや嘘だけど。とにかく聖臣よりも先に着くことは珍しいことだった。理由は至ってシンプルで、ガキ臭いものなのだけれど。

項に触れた、自分よりか少し高い体温。なんだかむず痒くなってしまう。低くてぶっきらぼうな声が、今日はなんだかもっと素っ気なくて。ゆらゆらと視線を合わせれば、同じく、ゆらゆらと視線を外された。それが、酷く可笑しい。

「何笑ってんだよ」

「んー?んふふ」

「きも」

緩くて、ひんやりとした風が頬を撫でた。吸い込めば体温が少しくらい下がりそうだ。ついでに俺の、心臓の動きも抑えてくれ。すん、と鼻から息を吸い込んで、透き通る空気越しに男を見つめた。日曜の19時に、 わざわざ予定をこじ開けて、待ち合わせをした男を。

「キヨオミくん」

「……何」

「な〜んか俺に言うこと、ないかなぁ?」

黒のタートルネックに薄手のコート。スラリと伸びた脚はよく見れば筋肉質で、モデルと言うよりスポーツ選手って感じ。いや、まあ事実なんだけども。うねる黒髪は、スポーツ選手って感じはしない。なんか、イマドキ? って感じ。片側だけ撫でつけられた髪は、俺が知らぬ間に定着していた。今日の、この男を品定めするように見つめると、耐え切れないと言うように顔まで他所を向いてしまう。ああ、困ってる、困ってる。じわりと細くなる漆黒の瞳が、外灯色にちらちら光った。

「キヨオミく〜ん」

「………………ま、」

「……ま?」

追い討ち。コートのポケットに突っ込まれた両手を追いかける。正面にいる男のポケットに手を入れるのだから、当然入れずらい。聖臣ほどの手首の柔らかさはないから、コートごと身体を引き寄せて繋がった。

「っおい、もと」

「きよおみ、つづき」

汗ばんだ手のひら同士を強く結ぶ。指が交互に絡んでひとつになる。聖臣の眉間が険しくなったら、誰も見てないよと囁いた。ポケットの中でしか出来ない、抱擁のようなもの。人前で抱き合う、なんて。試合中に興奮した時くらいしか許されないから。この場で伝えられる最大限の愛と、ほんの少しの煽りを含んで。

黒曜石のような瞳が、俺を映したらこっちのものだ。観念したように薄い唇が、動く。

 

「…………マイリ、マシタ」

 

整った顔が歪んだのが、愉快で。身体の奥がじわじわと熱くなった。

「ん、今日はお前の奢りね」

 

優越感、というものなのだろうか。あの場で誰よりも守備に自信のあった俺は、ブロッカーとレシーバー泣かせのボールをほとんど拾ってみせた。あの、綺麗に何度もAパスで返したときの、あの、言葉を投げかけたときの、聖臣の顔が忘れられない。この顔を見れるのが俺だけならいいと思った。俺以外に負ける姿を見たくないだけなのかもしれないけれど。とにかく俺と聖臣にとって今日の試合は特別で、それに勝ったのは俺。俺にとって死んでも負けたくないのは聖臣で、聖臣にとって死んでも負けたくないのは俺。

「やっっっと言わせた〜!!!」

「ムッカつく……」

去年のシーズン最後の試合では、EJPが負けたから俺も「参りました」と言わせられたのだ。一年根に持ち続けたのだ。何がなんでも聖臣にも言わせたかった。まあ、その遊びの提案をしたのは俺なのだが。

「……で、何食うの」

「やきにく!!」

「……まじ」

「聖臣の金だし」

何度も、何度も。戦ったその後は、ふたりで食事をする約束を守り続けている。聖臣がプロ入りしたのは去年だから、まだ始まったばかりだけど。この約束はこれからも続いていく。何度も何度も果たされる。負けた方がその日の財布を持つ、なんて条件も加えて。今日は特別気分がいいから俺が奢ってやったっていい。冗談めかして言うと、外気に晒された額にデコピンを一発食らう。

「黙って奢られてろ」

「え〜じゃあお言葉に甘えて、高いとこがいいな〜負けたきよーみくん!」

「肉の価値がわかるやつとなら行った」

「ジョから始まる焼肉屋は?」

「却下」

大通りを抜けて、一本奥の静かな道に出る。人が少ない分、灯りも少ない。これくらいが俺たちには丁度よかった。肩をぴたりと寄せると、鬱陶しそうに払い退けられる。「さむいの」とうそぶけば、相も変わらず呆れた顔をする。上着を着ろってな、はいはい。

「じゃ、適当なチェーンで許してやるよ」

「ウザ」

俺達は顔を合わせる度に何度も食事に行く仲だと、周囲には知れ渡っている。それは大半を濁した言い方であって、本当はもっと違う関係だ。俺達の関係に相応しい名称は、所謂「恋人」である。会って食事に行くのではなく、逢い引きと言った方がいい。デートだ、でえと。聖臣と会う度に朝帰りする俺に、チームメイトはどう思っているのだろう。ただ親戚と盛り上がって、夜通し飲み歩いているとでも思っているのだろうか。

 

バレーボールが上手な俺達は、世渡りが下手である。

 

信号待ち。視界がちか、ちか、赤く染まった。

隣を見ると店を調べているようで、静かにスマートフォンを見つめる横顔。先程暖かい橙色に染まっていた瞳は、妖しいネオンカラーに染まっていて、ごくりと唾を飲み込む。今日は止まれなくなりそうな気配がした。聖臣を独り占めできる時間は、限られている。

今年は、去年より一緒に居られるだろうか。長野と大阪に住んでいれば、会える時間は雀の涙ほど。試合が無い日でも、会えたらいいのに。このまま時が止まればいいのに。

血縁者に向ける感情ではないこと、この関係を誰にも言えないこと。わかっている。けれど少なくとも俺は、今の状況をもどかしく思っている。仕方がない。こんなこと、誰にも言えない。誰が知ろうとも非難する。

プロバレーボーラー。男。男。従兄弟。日本代表。

世間は、変わり者に冷たい目を向ける。

 

「ん、ここ」

「……ん〜、まぁよくわかんねぇしついてく」

スマートフォンの画面から見えたのは、華やかな精肉の画像たち。信号が青に変わって、前に歩き出す。見ていた画像が聖臣の足の振動でグラグラと揺れる。見えない。読めない。わからない。俺の動体視力を持っても無理ですぜ、とふざけようとすれば、強く聖臣の方へ引き寄せられた。ぐっと密着した身体は、先程俺が態とらしく擦り寄ったときよりも近い。

「前見ろ」

「うぉ、人いた?」

すれ違う人にぶつかりそうだったらしい。お前が画面をグラグラと揺らすせいだ。もう画面を見る努力はやめた。けれどそのまま「見やすいから」と言って距離を保った。聖臣の言う通り肉の価値はよく分からないし。未だにファミリー層が通う系の安い焼肉の方が良い。でも見てるフリをしていれば、聖臣は俺の腰から手を離さないだろうから。俺たちは何か理由がないと、人前で近づくことすら許されない……気がしている。

 

 

 

 

「酒飲みたくなるなあ〜」

「やめろ」

分かってるって、と付け足してメニューに目を通す。こんなに浮かれていてもシーズン中であることは変わりない。次の試合に向けてまたコンディションを再調整せねば。健康的な食事を心がけよう。今日以外。

結局「じょ」からは始まらないものの、ちょっとお高めの隠れ家的焼肉店にやってきた俺達。

脂身の多い肉を好まない聖臣が選んだのは、安い肉を扱わないこだわり店。完全個室で予約制。 言われるがまま着いてきたものの、メニュー表を見て思わず値段をガン見した。やっぱ画像くらいよく見とけばよかった。

「……おれ財布に2万くらいしかないよ」

「は? お前払わないんだろ」

「いや、うん、……うん」

ちらり、値段と聖臣を見比べる。勝ったとはいえ、いいのか? 俺が奢られていいのか? だって俺の方が早く社会人になったわけだし、ちょっと前まで聖臣は大学生だぞ? いいのか? せめて割り勘、とか。

「…………いや、聖臣が負けたんだし仕方ねぇよな」

「おまえ思考がダダ漏れなんだよ、ムカつく」

そういえば去年、俺も高級な鹿肉だか、鴨肉だかを奢らされた。味はよく覚えていない。正直、一品699円のファミレスで豪遊した方が何倍も食べた気になったであろう。

「何頼む? というかノンアルもダメ?」

「アルコールが入ってねえなら好きにしろ」

ドリンクで悩む俺を他所に、まず聖臣が開いたのは肉のページ、ではなくサラダなどのサイドメニューが写ったページ。俺が絶対に開かないページとも言う。

「え〜俺食べねぇよチョレギサラダ」

「別にお前に分けるつもりも無いしチョレギを頼むつもりもない」

チョレギしか知らねぇんだろ、と一瞥もくれずに目を伏せる。まぁ、そうです。そうですとも。

 

 

「────えーと、厚切り牛タンと、せせり、中落ちカルビ、烏龍茶2つと、ロース……あとは、チョレギサラダ?」

 

「……すみません、中落ちカルビじゃなくて中落ち上カルビ、チョレギサラダじゃなくシーザーサラダで」

「あれ? チョレギじゃないっけ」

「それはお前が勝手に言ってたやつ」

店員さんにごめんなさーいと謝って見送る。数分前の攻防すら忘れて、適当に言ったら違うようだった。はぁ、と掘りごたつに向かい合って座る聖臣にため息を吐かれる。が、気にせずに口を開いた。

「あ、聞いた? 角田結婚するらしいよ」

「へぇ」

「ええと、2年のとき5組だった川本さん? ってひとだって」

角田は井闥山学院の同級生である。同じバレーボール部に所属していて、3年時にはスタメンに起用されセッターとして活躍した。大学でバレーを辞めた彼は、結構な大企業に就職したと聞く。

「オメデト」

「おめでと、って……」

もっと驚け、喜べよ。同級生で同じ部員だったんだぞ? 俺なんて驚いて本人に電話かけたぞ。留守電に繋がったけど。結構というか、凄く嬉しい。あの女っ気の無かった角田が結婚なんて。しかも同級生となんて。素直に感動だ。

24歳になって、周りにちらほらとおめでたいことが増えてきた。結婚をする、彼女がまたできた、子供が産まれた。幸せそうで何よりだ。

 

「羨ましい?」

 

息が詰まった。

胃の中が途端にぐるぐると、忙しなく回る。

反射的に見上げた顔はいつも通りで、何故だか、俺だけ焦っている。

「​─────な、んで」

「俺が、質問してる」

質問を質問で返すことに腹を立てたのか。狼狽しているのが面白くないのか。聖臣の眉はどんどんと歪んでいく。​─────これは、何に対しての“羨ましい”だろうか。女性と結婚することだろうか。家庭を持つことだろうか。別に、羨ましくはない。そう、素直に言ってしまえばいいのに、心のどこかがブレーキを踏む。長い沈黙は、ふたりの隙間に入り込んで、動かなくなった。心の中を見透かすような聖臣の瞳が、怖くて。目を伏せる。

俺は世渡りは上手だが、聖臣の前だと上手くいかない。

それは昔から一緒にいるからなのか、既に心を明け渡しているからなのか。聖臣が世の中の人とは切り離された、唯一無二の存在だからなのか。よく、わからない。

「……うらやましくは、ない」

「あっそ」

俺達はバレーボールを捨てられない。興味、趣味、部活、仕事。全てがバレーボールだったのだから、捨てたら何も無くなってしまう。おまけにお互いを繋ぐのもバレーボールときた。これがなきゃ、恋人にもなっていない。これは断言出来る。バレーか、聖臣か。そんな大層なことは聞かれていないのに。じゃあどうして、こんなに歯切れが悪いのか。それも、分からなかった。

そのうちに足音がして、注文した肉がとんとんと運ばれてきた。この空気を変えられるのは俺ではなく、店員さんと肉らしい。丁寧な焼き方の説明に相槌を打つうちに、幾分か落ち着いた。

「とりあえず食べよ」

「……ん、」

赤と白のコントラストが映える、美しい断面。分厚いハラミをトングで掴む。熱された網は今か今かと赤身を待っていて、立ち昇る香ばしい匂いに想いを馳せた。「もう焼くよ」と一声掛けて、網の上に二枚横たえる。じゅわあ、と脂身が蕩ける音。俺は一気に全部焼きたい派だけれど、聖臣はひとつづつじっくり焼きたい派。こればかりは財布を持っている聖臣に主導権を渡そう。

「​────聖臣、これもういい?」

「まだ」

さいですか、と手を遠ざけた20秒後、その肉は俺の皿に置かれた。その誤差、俺には全く分からない。網将軍め、と聞こえないように呟く。じろり。どうやら聞こえていたらしい。同じような声量でゴメンナサーイと謝った。

「早く食え」

「え、うん」

トングを持つ手が、せっせと動いて肉を焼く。俺は箸を持たされて肉を食べる。俺の分は聖臣が焼いて、聖臣の分は聖臣が焼く。ということは俺にトングを持つ機会はない。本当にあの男は網将軍である。タレを手渡されて、言われるがまま皿に注ぐ。胡麻が散りばめられた、たっぷりのタレ。暖かな色の照明が、きらきらと肉を輝かせた。タレの海に、焼きたての肉をたっぷりと浸して、ひとくち。

「……ん! ……っう、ま」

そこそこの値段だからか、はたまた焼き加減が良いのか、口の中で蕩けた。分厚い肉なのに簡単に噛み切れる。じゅわりと脂が溶けて、でもくどすぎない。噛む度に旨みが口の中に広がる。これは、白米が欲しい。

「美味いだろ」

「やっっっばい……」

二度目の注文からはタッチパネル式らしく、ライス大とハラミをもう一皿追加する。ゴマ入りのタレも甘辛で、白米が待ち遠しい。ほかほかの白米に味の濃いハラミを乗せて、包んで食べる。最高だ。

「前に来たときはハラミ頼まなかったけど、お前好きだろ」

網を見つめながら、そんなことを言う。聖臣なりの、優しさ。こちらは見ないけれど、控えめに、ふわりと笑うから。

「​─────前、」

そこに自分の黒い感情が混ざるのが、嫌で嫌で仕方がない。けれど、確かめずにはいられなかった。

「……前、は、誰と来たんですか? 聖臣クン」

揶揄うように、でも燃えたぎるような嫉妬も混ぜて。こちらも目線を合わせずに笑う。 最悪だ。ちょっと戻りかけた雰囲気をぶち壊した。また沈黙が流れる。

仕方ない。聖臣の口から他の奴の名前が出るだけで、胸が握りつぶされそうになるのだ。キリがない。俺は男でも女でも構わず嫉妬してまうから、知れば知るだけ不安になるだけだった。聖臣を誰にも取られたくはないが、それを口に出すことは憚られる。誰にもこの関係を言ったことがないから、誰もこの関係を知らない。なら、いつ聖臣が知らないやつに口説かれていたって、なにをしていたって、世間は別に叩かない。むしろ、俺の手を握ることが最大の悪手なことに気付かされる。

「……あ〜、ごめん、やっぱいいや」

しかも、自分が先程知り合いの名前を出したことは棚に上げている。俺の性格は人が思うより数段、面倒だ。

「皿」

トングでこちらを指して、タレ皿を出せと要求される。いとも簡単にスルーしやがって。皿は出す。肉に罪はない。

「牛タン」

「あざぁす」

「塩」

「はいはい」

塩が振りかけられた場所に置かれた肉。疑いもなく箸で掴むと、煙越しに見える聖臣の牛タンとは明らかに違う色だ。なんか、茶色い。

「俺の、焼きすぎてね……?」

「別に」

「あ〜、そう」

間違いなく焼きすぎている。だってちょっと縮れてる。まあ、美味いことに変わりはない。ぱくりと口に含めば縮れているとか、あまり関係なくなる。歯ごたえがあって美味い。ちょっと塩辛いけど。

「この店」

「むぐ、ん、……なに」

「宮と、木兎さんに連れてかれた。日向もいた」

伏せた瞳。長いまつ毛に暖かな照明が反射する。綺麗だなぁ。なんて、チープな言葉。口に出すつもりはない。

お前が心配することはなんもねえ。そう、伝えているようで。あまり大きくない口が鮮やかな色の牛タンを頬張る。じいっと、見つめてしまう。

「……おぉ」

「聞いといてなんだよ」

「怒られるかと、思った」

む、と眉間にシワを寄せた聖臣。心外、と言っているようだ。だってもっと、昔は。すぐに機嫌を損ねて、意地を張って、ムッとして、拗ねて、面倒くさくて。今や聖臣は牛タンを焦がす程度だ。成長しているではないか。

前なんて似たような嫉妬から始まった喧嘩で、2日会話しなかったことがある。ちょっといじけてみて、反応を伺っただけ。それなのに「俺の事信じらんねぇならいい」なんて。ムカつくじゃん? カチーンと来てしまった俺はそれはも〜面倒臭い拗ね方をしてしまって、見事に喧嘩別れ。ちょっと頭冷やそう程度に部屋を飛び出した。追いかけてもこない、メールもこない。珍しく不安になった。あ、これ別れるっていう意味のやつだった? とか。俺の方が面倒臭い男だったな、とか。ぐるぐる、考えた。そしたらいきなり聖臣が俺の部屋に押し入ってきて、無理やり仲直りしたっけ。聖臣に抱き締められると、どうしていいのか分からなくなって固まってしまう俺。何も言えずに黙っていると、寂しそうに「別れねぇから」って言われたのを覚えている。明確な形が無い関係は昔も、今も不安であった。お互いを縛りきれない学生のうちなら、尚更。あぁ、忘れられないのはあの後かも。項に手を添えられて、引き寄せられて。聖臣のキスはいつも優しいけれど、あの日だけは特別に優しかった。舌が絡んだ感覚すら、覚えている。雨降って地固まる、とはこのこと。とびきり甘くて、とびきり蕩けた夜。この愛は、今でも身体に染み付いている。あの日を思い出す度に、大丈夫だと言い聞かせた。だから今も、大丈夫だ。

「機嫌、直った」

「ん、きよーみもな」

「何にそんな笑ってんの?」

ふ、と笑みを零すと、聖臣も安心したように一息ついた。分かってるのに。ウワキなんてしない。目移りは、どうか分からないけれど。そこら辺、聖臣はしっかりしている。俺に愛想が尽きたなら、面と向かって言うに違いない。

「ん〜、思い出してるんです」

「なにを」

「えぇ聞いちゃう? きよおみはえっちだなぁ」

「死ね」

心底聞いて損した、という顔をして何かの肉を食べる聖臣。けれど瞳は柔らかくて、熱っぽい。煙の奥にいるからだろうか。目を合わせるとゆらゆら、揺れるのだ。流石に網もあるし手は伸ばせない。近くにいたら間違いなく、箸を握る手に自らの手を重ね、呆れる声も飲み込んで、俺を無理やり食べさせていた。甘い夜を思い出してしまったせいで、やけに物憂げなまつ毛や、てらてらと光る唇に目が吸い寄せられてしまう。

「……元也、足」

「あしが、なに」

190を超える身長の、半分以上は足。テーブルの下には到底収まりそうはない、もしくは窮屈そうな足を、自らの足で絡めとる。手が握れないのだからこれくらい許せ。

「行儀悪ぃ」

「ちょっとだけ」

足同士が絡まりあって。まるで、小学生の悪戯。スキニーの中の素足を求めている。裾を上げるようにつま先でほじくると、蝿を追い払うように拒否された。

「なぁんで」

「いや、逆になんでだよ」

「いいじゃん足くらい」

「どうせその靴下も3日続けて履いてんだろ。嫌だ」

「俺の事なんだと思ってる?」

そうも言っている間に焼け続ける肉と、絡まり合う足がなんとも滑稽だ。触れ合った聖臣のふくらはぎと俺の踵。素肌の熱を伝え合えば、まるでそこは帳の中。焼け焦げたように熱い。

「きよおみ」

「……なに」

「ここ出たら、」

いっそう熱を分け与えて、その気にさせる。止まることのなかった聖臣の手がやっと静かになる。俯いた顔から目線だけを寄越した。ちらり、幼げな瞳から期待の眼差し。じゅわじゅわ、じゅわ。心臓から血液が溢れ出すような、脳が焦げるような、沈黙。なぁ、網見なよ。やばいよ。

唇を動かしただけで、聖臣の喉仏は上下する。

 

「ラーメン、行かね?」

 

今日一のため息と共に、焦げた肉を押し付けられた。

 

 

 

 

「や〜! すっげ〜食った! やばい! 吐きそう」

「やめろ」

結局ラーメン屋に行き、追加でコーヒーショップへ寄った。肉と白米をいつも通り食べて、ラーメンを啜り、新作のフラペチーノを飲む。高校生の休日みたいで笑えてくる。酒なんて一滴も飲んでない。それなのに、段々と足元がふわついた。吐きそうな腹を擦りながら、テイクアウトしたドリンクをちびちび飲む。街頭と信号が照らす暗闇の中、隣の男を横目に見る。黒髪が、溶けていきそうだった。緩い風になびく度、ちらちらと反射する光。カメラのピントがボケたみたいに、視界は揺れていた。

「元也、ひとくち」

「やばいくらい甘いよ?」

「え〜……どんくらい?」

顔を顰めた聖臣は、あまり甘いものが得意ではない。生クリームを食べればふたくちで胸焼けが始まるし、スポーツ選手ということもあって普段は口にすらしない。今も手に持っているのはエスプレッソのSサイズ。ホットを飲んでいるからか、喋る度に口から白い息が漏れた。

俺、飲める? と黒目がうかがってくるので、揶揄ってやることにした。

「ん」

「……なに」

人ひとりぶんの距離を詰めて、肩と肩を触れ合わせる。大丈夫、今度は誰もいないから。れ、と舌を出して、上目遣い。俺から確かめたらいい。俺から甘さを感じ取るといい。じわりと目を細めて、聖臣の反応を伺う。2パーセントくらいの確率で、近づいてくれるんじゃなかろうか。人通りが少ないだけで、無いわけではない東京。

2人だけの秘密がいいのに、時折、見せびらかしたくなるものなのだ。

どうしようか、こんな東京で、ちゅーなんかしてるとこ、写真撮られちゃったら。

自分の手のひらの熱で溶けだすドリンク。頬を撫でる冷たい風。晴れているのに星は見えない空。ぴとり、密着した唇。そのまま味見するように、舌をほんの少し擦り合わせて離れていく。1秒にも満たない触れ合いに、頭が追いつかないまま惚ける。聖臣の舌、熱くて、苦かった。じん、と痺れるように熱が全身に広がる。

「ん、あま、要らねぇ」

「あ、……そ」

俺が、加速しているみたいに。聖臣も、持て余す何かがあるようだった。だって、今の、とか。まずひと口を強請るような男ではない。さっきのラーメン屋も。隣でラーメンを啜る俺の髪を、耳にかけたり。今だって、手を離してくれない。普段は人前でしないことをさらりとやってしまうのだ。

「きよおみ」

「なに」

「ね、行こ」

コートのポケットに無理やり詰め込まれた手。汗ばんだ手のひらが、絡まりあった。

知らない誰かと、すれ違う。その度にこちらを見ていないか、確かめてしまう。ちらり、ちらりと目で追う数だけ手のひらが握られる。俺達しか、手を繋いでいる俺達にしかこの繋がりの形はわからない。だから、もういいんじゃないかって。態とらしく、歩幅を狭めた。

 

 

 

 

明かりもつけずに抱きしめ合って、相手の顔もよく見えないままキスをする。ちょっと外れて、右の頬に口付けられた。

もっとちゃんと、して。

布団になだれ込んで手探りで灯りをつけた。うすぼんやりと橙色の視界。飲酒など一滴たりともしていないのに、酩酊したような心地だった。それは、目の前の男も同じなようで。

「ん、へたくそ」

沈みこんだシーツの上で、口付けから逃れるように身を攀じる。覆い被さる身体から抜け出すフリをして顔を背けた。

「逃げんな」

「ぁ、んぅ、ん、はふ」

聖臣から逸らした顔を、無理やり引き寄せられる。口付けには身を委ねるが、手綱は俺が握っていると言っても過言ではない。首輪をかけるように、項に腕を回す。一度拒否するフリをしたからか、離れていかないように身体をがっちりと固定される。行かないけど、どこにも行かないけれど。そういう独占欲を見せてくれるのなら、弄びたくもなってしまう。

「は、俺は下手くそじゃねぇ」

「ぁ、ん、んん」

知っている。下手くそじゃないのも知っている。ムスッとした顔が愛おしくて、何度も言ってしまう。ごめんな。

「んぁ、れしーぶ、はへたくそ、だけど、ん、こっちはじょーず」

れ、と舌を出して、聖臣の舌と擦り合わせる。顎を掴んだ手が、頬を撫でて、耳を塞ぐ。甘い水音が脳髄に響いて、蕩けそうだ。もう聖臣の舌は苦くもなくて、俺の舌も甘くない。そんなのもう消えてしまうほど、何度も何度も擦り合う。汗の匂いが鼻を掠めて、背筋を駆け抜ける快感。時速何百キロかの、曲がるボールを綺麗に上げた時とは似て非なる快感だ。む、と眉をしかめる顔に口角を上げる。思い出してる。何時間前かの屈辱を。好敵手に負けた味を。その味を掬い取るように腕に力を込める。眉間のシワが語ったのは、EJPに負けた瞬間の、あの不愉快な気持ち。なんせ俺がとてつもなく愉快だったのだ。この男が愉快なわけが無い。

 

EJPリードで迎えた5セット目のマッチポイント。BJに得点されればデュース。サーブは佐久早。連続得点で追い上げられているのはこっち。風はBJに吹いていた。

俺が、守備専門でなかったら、自由自在にサーブをして、宙を飛ぶ選手だったら。間違いなくここで佐久早を狙う。別に作戦とかは無い。単に、俺のボールを拾って欲しいから、落として欲しいから。こいつと、遊んでいたいから。口の端をひと舐めして、腰を落とす。予感、ではなく事実。俺にボールが来る。どこかのタイミングで、視線がかち合った気がしたが、そんなの記憶の彼方に消えた。見えるのは、目の前に迫るボール。くん、と軌道を変えるボール。曲がらないボールならば、ここで足を踏み出すと顔面強打。しかしこいつのサーブは特別だ。踏み出さなければ、落とす。大きく一歩。スローモーションのように視界がクリアになる。こういう時、脳より速く身体が動く。

「ン゛ッ!!」

ドパッ! 腕にボールがミートする音。そして少し、ほんの少し、腕を沈める。ここがコツ。回転を殺す、聖臣の武器を殺す、コツ。自分の回転に、自分のテリトリーに引き込む。たった一瞬のプレーに何百、何千何万もの経験が凝縮される。何度も零した。何度も練習した。お前のボールを上げるためだけの練習を。

これが始めから終わりまで聖臣とバレーをする男の、バレーボールだ。

綺麗に上がったレシーブの奥で、黒い獣を捉えた。

バレーボールはチームプレー。バレーボールは球技。バレーボールは、聖臣とやるもの。そう、身体が知っている。

綺麗にAパスで返ったボールに会場が湧く。そんなことはどうでも良くて、ただチームとして、個人として、お前を叩き潰せるのならそれで俺はいい。緩い回転でセッターの掌に収まるそれが、8番角名の掌に収まる。くん、とブロックを避けて抜けていくスパイク。センター線からコートの奥へ落ちかけるボールに、手を伸ばしたのも、やっぱりお前。充分な体勢ではないせいか、不規則な方向にボールが浮く。しかし多少レシーブが乱れても宮は誰でも使うから、全員のスパイクの可能性を考える。

「宮!」

飛び出す15番。闘気、漏れすぎ。かくいう俺も、笑みを抑えられなかったと思う。やっぱり最後はこうでなくっちゃ。何度も見た、あの空中姿勢を。今は正面から見つめられる時間に感謝をして、俺はバレーボールをしよう。

何のために、俺はリベロになったと思ってるんだ。

世の中は、俺を良いリベロだと言う。しかし俺はその言葉を受け取るには、少々申し訳ないなと思ったのだ。謙遜ではない。俺がリベロになったのは、リベロというポジションが好きだからでも、守備が得意だからでも、憧れの選手がいるからでもなんでもない。聖臣に勝ちたいからであって、他意はない。世界一のリベロになったら、守備に関して俺は聖臣のことをボコボコにできるわけだから。世界一も通過点でしかない。

流石にそんなこと、言ったことないよ。無難に、世間が求める言葉選びが出来ているつもりだ。

BJコートに最後の一球が跳ねた時。やっぱり、目が合ったのだ。この宴が終わってしまったことへの落胆と清々しさ。チームメイトにもみくちゃにされたあと、整列して握手をする。親しい選手には一言加えて、かつてのチームメイトであり、家族であるお前には、なんて声をかけようか。心底悔しそうに、目の前に現れるから。つい、魔が差したのだ。

 

「────下手くそレシーブ」

 

握られた手がやけに力強くて、熱かったこと。それを、今になって思い知らされる。

 

 

「ぁ、ア、んは、ぁっ」

「ん、だから、にげんなって」

逃げてない。逃げてない。抵抗も出来ないくらい抑え込まれて、足を絡められて、髪を梳くこの男は。間違いなく獣で、負けっぱなしでは終われない男だ。

ごめんって。そこまで悪いレシーブじゃなかったのも分かるよ。でも俺より下手だったんだもん。俺ならAパスで返す。

荒い手つきで、スウェットの中に手のひらが入り込む。素肌を撫でられると、糖度の増した音が喉から漏れる。

 

形のある関係が、羨ましい。

指輪で、或いは何かで縛れる関係が、羨ましい。

堂々と人前を歩ける関係が、羨ましい。

聖臣は恋人だと、大声で言えるようになりたいなぁ。今も曖昧に「従兄弟です」と返す自分が惨めだ。俺は心にも無いことを言うのが得意だから、心の中をさらけ出すことは不得手。

ふたりが、ふたりだけの世界ならそれで良かったのに。生憎世界には何億もの人が居て、何億もの人が俺達を見てる。誰からの承認も要らない、見なくていい。でも俺達をバレーボールで見つけてくれた、繋いでくれた世界には感謝している。

 

俺は、バレーボールが上手で、世渡りも上手だ。

俺達は、バレーボールは上手だけど、世渡りは下手くそだ。

ふたりでいると、世界は楽しくて甘くて、辛いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

​─────ねぇ、バレーボール捨てるの、怖い?

 

 

 

微睡みの中、ふと零した。別にそれを真剣に答えても、答えなくても、今の俺達はバレーボールを手放さない。でも、ちょっと、気になった。俺達、バレーボールしか出来ないから。無くしたら、ただの下手くそだ。

体温に包まれた身体は蕩けるように重い。瞼も重い。ふたりだけ。俺達が全身で愛を伝えられるのはこのホテルしかない。或いは、どこか異国の、遠い場所。

俺より少しだけ高い体温が、さらけ出された首筋に擦り寄る。猫のような獣は、きっと今年のオリンピックに選ばれる。バレーボールで、世界と戦う至宝である。逆にバレーボールが手放さないよ、なんて。

もう微睡みの中になんていなくて、バッチリ起きているのに。気にしてないふり、寝てるふり、してる。まぁそんなこと、聖臣にはバレているんだろうけど。

「元也がいるなら、」

その言葉の続きは、手のひらを握られたあと紡がれた。

俺は、聖臣がバレーボール以上に熱を向けるものを知らない。

 

「​────いつ終わったって、いい」

 

真剣に答えても、答えなくても、今の俺達はバレーボールを手放さない。

 

でも俺は、その言葉で。少し、ほんの少しだけ、泣いてしまった。

©2020 by 錯綜するこの想いと。Wix.com で作成されました。
当企画は非公式のものであり、実際の企業、人物等とは一切関係ありません。

bottom of page